「傷寒論」のいちばん最初に登場
重要な基本処方「桂枝湯」
その派生処方も多く有名だ

 桂枝の枝が桂枝、皮が桂皮。煎じ薬では区別されるが、ここでは考えない。この記事では桂枝で統一する。

【基本処方:桂枝湯】

  No.45(桂枝湯):桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草

適応:外感風寒表虚証

主薬は桂枝で、経絡を温めて風寒を発散させる。また健胃作用もある。芍薬は風邪を治す要薬で、鎮痛・鎮痒作用がある。これに「生姜+大棗」が副作用防止・作用緩和の目的で配合される。最後に諸薬の調和の目的に甘草を入れると桂枝湯のできあがりだ。

その適応は「外感風寒表虚証」である。外感風寒までは麻黄湯とまったく同じ。違いは麻黄湯が表実症であるのに対し、桂枝湯は表虚証。この違いは汗だ。

無汗なら表実証、つまり麻黄湯の証。自汗なら表虚証で、つまり桂枝湯の証となる。無汗の患者に麻黄湯を投与し、汗が出てきたら桂枝湯という流れもあるだろう。

また悪風(風にあたると寒いといった症状)もポイントだ。

悪風+汗とくれば桂枝湯の出番だ。麻黄湯が強力に発汗させるのに対して、桂枝湯は軽度に発汗させる。そしてもう一つ重要な違いがある。桂枝湯は身体を補い調整するような作用を備えている。構成生薬だけながめると、胃腸薬のように見えないこともない。

その他に、虚証のアレルギー性鼻炎や汗証(自汗や局部の汗)にも用いられる。

【桂枝湯の派生処方】

 No.1(葛根湯):葛根、麻黄、桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草

適応:外感風寒

桂枝湯に葛根、麻黄を加えると葛根湯になる。もちろん、麻黄湯からの派生と考えることもできるが、桂枝湯に2つ加えるだけの方が覚えやすい。

葛根湯は麻黄湯と桂枝湯の中間くらいのイメージ。よってその適応は広い。そして麻黄湯よりも安全なので使いやすい。

カゼをひいたら6時間以内に服用するとよいと言われている。また「麻黄+桂枝」なので基本的には無汗のかたが対象だが、桂枝湯も含まれているため、少々の汗なら使っても構わない。ただし、汗をびっしょりかいているような症例には用いてはならない。

比較的体力がある人の熱性疾患の初期にむいているが、咳にはあまり効かない。鼻閉にはよいが、葛根湯加川芎辛夷のほうがなおよい。

また、主薬の葛根は、津液を上昇分布させて、項背筋のこわばりを緩和する。ゆえに葛根湯は肩こりにもよく使われる。

そのほか、上半身の神経痛、三叉神経痛、寒冷蕁麻疹などにも用いられる。

 No.10(柴胡桂枝湯):柴胡、半夏、黄芩、人参、甘草、大棗、生姜、桂枝、芍薬

適応:太陽少陽合病

桂枝湯に小柴胡湯を加えると柴胡桂枝湯になる。つまり半表半裏証と裏寒証の自汗の両方に効果がある。具体的には微熱が続く(自汗)、食欲不振、疲れやすいといった症状だ。

柴胡桂枝湯は小柴胡湯とその派生処方 その1で紹介しているが、じつはその臨床応用はもっと多岐に渡る。たとえば、感冒、流感はもとより、虚弱体質の改善やかぜの予防、胃潰瘍、胆石症、慢性肝炎、慢性膵炎、心臓神経症、不安神経症、てんかん、原因不明の発熱などに用いられている。

とくに虚弱体質者でかぜをひきたくない時(かぜの予防)や慢性膵炎による腹痛などは西洋薬ではうまくいかないことが多いので、もっと見直されてもいい方剤だと思う。

【投薬時の注意点】

No.45(桂枝湯):無汗のものには適さない。

No.1 (葛根湯):無汗タイプが基本。虚弱の汗をかきやすい体質には適さない。また、麻黄が入っているので、証が異なる場合や麻黄の量が多い場合はその副作用に注意する。麻黄には交感神経や中枢神経の刺激作用があるので、興奮、不眠、血圧上昇、動悸、頻脈、発汗過多、排尿障害を引きおこすことがある。

No.10(柴胡桂枝湯):手足のほてりやのぼせといった陰虚の症状があるときには使わない。その症状がひどくなる。また、桂枝・人参が入っているので、高血圧で赤ら顔の人には注意が必要。